税理士が協業して案件を回すための役割分担と進め方
税理士が自身の会計事務所の人手不足の解消や顧客数の拡大を目的として、他の税理士と協業することは、とても有効な手段です。
しかし、明確に役割分担を定めてから業務を進めないと、協業体制が破綻してしまうことがあります。
破綻しないために、どのように準備を行っていけば良いのでしょうか。詳しくご紹介いたします。
協業の準備
協業を開始するにあたり、明確な役割分担が重要となります。下記の項目に留意をしながら、準備をしていきましょう。
①役割分担をする作業を選定する
役割分担を定めるにあたり、最も重要なことは、どこの業務に対して不足があるかを正確に把握することです。
記帳作業、申告書作成作業、申告書チェック作業、顧客の相談対応等、事務所内の作業を細分化してどこに他の人の力が必要かを判断します。
②作業に適した人材を募集する
他の人の力が必要となる作業によって、作業に適した人材が異なります。記帳作業に不足があれば経理経験者、申告書作成作業であれば会計事務所勤務経験者、申告書チェック作業であれば税理士、といったように、その作業にふさわしい知識や経験をもつ人を募集します。
作業内容を教える時間が十分にとれるのであれば、経験の浅い人材と低価格で協業することができますが、目の前の人手不足の解消や顧客数の拡大を目的とするのであれば、それは得策ではありません。既にその作業ができる人と適正価格で協業することが、それらの問題解決への近道となります。
③協業予定者への明確な業務説明
協業への応募があった際には、業務開始前に業務内容とその責任の所在について、明確に説明をする必要があります。
業務内容は、役割分担を明確に提示し、更に責任の所在も明らかにするようにします。
役割分担は、細かく提示することで、協業の破綻を防ぐことができます。
例えば、「顧客の試算表作成までをお願い」と伝えるよりも、「顧客からの資料回収は○○が担当、会計ソフトへの入力は○○が担当、入力時に発生をする質問事項は○○が担当…」といったように、細かく誰が何をすべきかを明確にすると、協業予定者との負担感のミスマッチを防ぐことができます。
細かく誰が何をすべきか、を設定することが手間である場合には、「顧客に必要な作業を全てお願い」と、年間作業を想定することができるような税理士等、能力の高い人に多くを渡すことも、ひとつの方法です。
また、それぞれの作業の責任の所在を明らかにしておくことも、協業の破綻を防ぐには大切です。
例えば、「申告書作成をお願い」とした際に、その申告書の内容に誤りがあり修正申告が必要となった場合、その責任を負って修正申告書を作成するのは、申告書作成をした人なのか、それとも申告書をチェックした人なのか、誰がやるべき作業なのでしょうか。
また、その修正申告によって顧客に損失が発生した場合、その損失の補填は誰が行うのでしょうか。
このように、申告書への税理士印は協業の依頼者が行うと定めていても、細かい作業毎の責任はどこにあるのかを明確に定めておかないと、問題が発生した際の対処が上手く行えなくなることがあります。
④報酬の提示
業務内容と責任の所在を明らかにしたうえで、報酬を提示し、協業予定者から合意を得る必要があります。
協業を開始するにあたり大切なのは、その報酬の金額の多寡ではなく、業務内容と対応する報酬を明確にすることです。
例えば、「顧客に必要な作業を全てお願い」と多くを渡し、年間の報酬を定めた後に、顧客が急成長をして、作業量が倍増した場合に、報酬は倍増するのか、それとも据え置きなのか、このような予期せぬ事態に対しての報酬まで確認しておく必要があります。
協業の依頼者は、協力者に対して「ついでにこの作業もお願い」と、業務を容易に負担させることがありますが、協力者は雇用者とは異なる立場の人です。
業務の増加を依頼する際には、報酬の増加が発生する可能性があることを念頭において進めましょう。
協業に向いていない作業
協業を開始するにあたり、役割分担が重要ですが、協業予定者に依頼すべきでない作業がいくつかあります。
それは、顧客の経営相談、報酬交渉等、他の人に渡すことで顧客との関係性が希薄になる可能性があるもの、税理士印の押印等の最終責任を負うもの、会計事務所自体の経理等の会計事務所の経営に関わるもの等が挙げられます。
これらを依頼してしまうと、顧客や会計事務所は依頼者のものなのか、協業予定者のものなのか、曖昧になってしまうことがあります。
協業依頼者と協業予定者の関係性を保つために、依頼する作業はしっかりと選定する必要があります。
協業が破綻するケース
協業が破綻するケースは、依頼者、協力者が双方にそのケースの原因になり得ます。
①役割分担が明確でない
役割分担が明確ではない場合には、誰が何をすべきか、依頼者と協力者の間での認識が異なることがあります。
お互いに相手がやるべき作業だ、と認識していたことが原因で、未処理の作業が発生すれば、顧客に損失を与えます。
依頼者が明確に示さなかったことが原因で協力者の負担感が認識よりも増加し不満をもつことも、協力者がスキルを適切に示さなかったことが原因で依頼者が予定より業務を請け負ってもらえないことに不満をもつこともあります。
持ちつ持たれつの関係を維持できるような役割分担を、あらかじめ明確にしておきましょう。
②報酬が明確でない
報酬が明確でない場合には、依頼者が依頼後に過度な追加報酬の要求を受けることや、作業の負担減を要求されること、また協力者が依頼後に報酬の減額を受けることや、作業の負担増を要求されることがあります。
作業の負担感と報酬について互いに不満をもつと、協業を継続するのは難しくなります。
報酬の増額は、会計事務所の経営が顧客の顧問料に依存する点を踏まえると、簡単に行えるものではありません。
あらかじめ互いに納得のいく作業の負担感と報酬を提示するようにしましょう。
③連絡が取りにくい
作業分担や報酬が明確であっても、連絡がとりにくい状況になると、仕事相手としては信用がおけなくなります。
協業を行う場合は、同じ会計事務所の職員と異なり、会計事務所の営業時間に必ず業務に従事し、連絡がとれるとは限りません。
会計ソフトや申告ソフトのクラウド化により、作業時間帯は以前より多様化しています。
連絡を怠ることは勿論仕事相手としてふさわしくないですが、そうでない場合でも作業時間帯が大きく異なると、連絡が取りにくくなる可能性が高まるため、依頼者と似たような時間帯で作業をする人を協力者に選ぶと、仕事が進みやすくなるでしょう。
④人が合わない
仕事相手として許容できない程に、性格や思考が合わない場合があります。
目の前の人手不足の解消や顧客数の拡大を目的とする場合、それを擦り合わせる時間をとることは難しいです。
依頼開始時に人柄を見抜くことは困難なことですが、雑談を交えながら業務説明をする等、協業条件だけでなく、長い付き合いができるかどうかも判断するようにしましょう。
まとめ
このように、協業を開始する際には、依頼者の準備が必要です。「一緒に始めたけど何か合わないな、違うな」といったことを、防ぐためには、明確な依頼条件の提示が必要です。
また、協業を開始した後、例えば「顧客に必要な作業を全てお願い」と多くを渡したとしても、連絡をとって、状況を確認しながら進めていくことが大切です。
協力者と関係が悪化し協業前より負担が増えた、顧客が不満をもち離れていった、会計事務所の意思決定権を奪われた等、協業が破綻しないように、上手に進めていきましょう。
